【必読】ヴァイオリン弦選びで悩む人が知っておきたい弦比較のコツ。

弦を比較する究極の方法は自分で買ってヴァイオリンに張ってみることです。できればそのヴァイオリンを他の人が弾いているのを聴ければいいですが、それは少し贅沢かもしれません。

しかし気になった弦を片っ端から買うと金銭的に厳しいですし、もし気に入った弦が高価で寿命があまりもたないなら、継続的な痛い出費を余儀なくされます。もちろん、潤沢な資金を持ちヴァイオリンに費やすお金に糸目をつけないという方なら全く関係のない話です。

ざっと挙げてみても、弦の特徴を比較するための要素はかなりありますね。
*響き、音質
*音量
*レスポンス(=反応の良さ)
*弦の押さえやすさ、演奏のしやすさ、張力、弦の太さ(E線0.25,0.26,0.27,0.28,etc)
*裏返るか裏返らないか(E線)
*AGDとのバランスがとれているか(E線)
*自分のヴァイオリンとの相性がいいか
*寿命は長いか短いか
*弦の値段は高いか安いか(質がいいなら激安に越したことはない)

弦の明るさ、暖かさ、クリーンな響き、コンプレックス(=複雑)な響き


Violin String Review(http://www.violinstringreview.com/quick-reference.html)より
Violin String Reviewというサイトに弦の明るさ暗さ、クリーンか複雑かといったことを示した弦のチャートがあります。

このチャートはほんの目安にすぎず、また人の感覚やヴァイオリンとの相性によってはこれは違うんじゃないかと思うかもしれませんが、参考程度に。明るいか暗いかの比較の時に「明るいほうがいいでしょ!」ということではなく、明るい暗い、クリーンコンプレックスは同じ価値で、性質の違いです。弦の性質を表す言葉は他に言い換えができます。英語ではbrightと呼ばれる性質は、日本語だと輝かしさ、明るいなどと表現します。その反対が英語でwarmと言っていますが、これは暖かさですね。暗さ(dark)と言われるときもあります。輝かしさ、暖かさ、と言いながら比較しても良いのですが、言葉が対象的な感じがしないので明るい暗いで言う方がわかりやすいかもしれず、この記事でも明るい暗いと言うことが多いかもしれません。

たとえばLARSEN Virtuoso(ラーセン ヴィルトゥオーソ)の弦を試していて、うーん響きはすごくいいんだけど音色の感じがなぁ、と感じたとします。標準的なLARSEN(ラーセン)を次試したとしても、このチャートに従えばbright系、すなわち明るい弦を行き来したにすぎないことになります。ラーセンのヴィルトゥオーゾで音が明るい気がすると感じたら、次は少し暗めのラーセンツィガーヌを試してみるというのが効果的ではないでしょうか。そしてその間に普通のラーセン弦がある、と。これはあくまでラーセンの弦に焦点を当てた話です。

上のチャートではドミナントを基準に置いています。ドミナントの明るさは明るいか暗いかというと、私にとってはわずかに暗めだと感じています。G線を弾くと特によくその弦の明るさがわかる気がします。

弦が明るいか暗いか、クリーンかコンプレックスかというはかなりの違いを生みます。たとえばINFELD RED(インフェルド・レッド)Vision ヴィジョンではまったく異なった印象を受けるでしょう。ヴィジョンが明るめ、インフェルドレッドが暗め、ヴィジョンがコンプレックス響きをしていてインフェルドレッドがクリーンな響きをしている。ヴィジョンの感じが気に入っていてVision SOLO(ヴィジョン ソロ)にいくならそれほど違和感を感じないかもしれませんが、もしあなたがヴィジョンの感じをそれほど好きなじゃないと感じるなら、Vision Titanium Orchestra(ヴィジョンチタニウムオーケストラ)Vision Titanium solo(ヴィジョンチタニウムソロ)を使用したとしても、根本的な性質の変化を感じる可能性は低いかもしれません。

つまりこのチャートから私が伝えたい事は、あなたが好きな弦、あなたのヴァイオリンに合う弦はどういう性質をもった弦なのかを把握することが大事だということです。

しかしこのチャートはほんの参考程度、というより弦の性質を把握するためのチャートに過ぎません。
たとえばWondertone SOLO(ワンダートーンソロ)ドミナントのすぐ隣のコンプレックス側に位置されていますが、私の印象ではドミナントよりも明るいです。ワンダートーンソロはドミナントのトマスティーク社ではなくピラストロ社です。ワンダートーンソロはピラストロのドミナントだ!という人もいますが、それにしては少し音が明るく複雑です。ワンダートーンソロは響きも豊かで素晴らしい弦ですが、弦がもつ複雑性をうまく出していくにはかなりの技術が必要だと思います。

最も暖かい響き、暗めな響きがするのはもちろんガット弦です。これはわかりやすいですよね。本番で使うかどうかなどは別にして、PIRASTROのEUDOXA(オイドクサ)などを張って弾いてみたら暖かい音とはどんな音か手っ取り早くわかります。今のように人工弦が普及していなかった時代、1900年代半ばくらいまではガット弦が主流でヴァイオリンといえばガット弦を張っていました。つまりヴァイオリンの歴史ではガット弦の時代のほうが長かったと言えます。そしてそのガット弦の音色とは暖かく多様な響き(コンプレックスな響き)を持ったものだったのです。20世紀の名ヴァイオリニストの音が好きな人で弦に迷っている人は、もしかしたら暖かさをもつ弦から探していけば良いかもしれません。

では明るく華やかでクリーンな弦は?となると、これはINFELD BLUE(インフェルド・ブルー)を張ってどう思うか試してみたら良いと思います。これが気に入ればとても良いことですし、トマスティークのメジャーな弦で安心です。明るく華やかとは演奏のことであって、弦に求めることではないと思った人は、それはそれで明るくクリーンな弦を選ぶ必要がないということです。

もう少し例示してみましょう。さきほどラーセンのヴィルトゥオーソの弦を出しましたが、このチャートでヴィルトゥオーソの対極はピラストロのOBLIGATO(オブリガート)となります。この2つくらい弾くと弦によって全く違うんだなと感じることができるでしょう。オブリガートが好きという人がbright系の弦を使用してもあまり気に入らないかもしれません。トマスティークのインフェルドレッドくらいにはいけると思います。

弦の張力、太さ(0.25,0.26,0.27,0.28 etc)、反応の良さ、押さえやすさ、演奏のしやすさ

弦の張力(テンション)は演奏する上でとても大事です。一般的には張力が高いと大きい音が出やすく、張力が低いと繊細な音となる。張力が高いと弦が押さえにくく、張力が低いと弦が押さえやすい。張力が高いと運弓したときの反応が鈍く、張力が低いと反応が良い。たとえばゴールドブラカットのE線でも0.25と0.27を弾き比べてみたら弦の太さの感覚が明確にわかります。ゴールドブラカットは0.25, 0.26, 0.27, 0.28 セットというのがあるので、ゲージの感じがまだ掴めていない人はこういうセットを買うのもアリだと思います。

さて、弦の張力(テンション)についてもう少し掘り下げてみましょう。

Violin String Reviewより(http://www.violinstringreview.com/tension-chart.html

Violin String Reviewにこのような弦の張力表があります。弦の張力、弦のテンションに関心がある人はぜひ参考にしてみてください。
もしE線をセットのE線を使わずに別のE線を使うなら、ADGの値を参考にしてください。ADGのテンションは低めなのにEは高め、というケースもあります。

この表によると普通のラーセン弦が最も張力が低いですね。同じくラーセンのヴィルトゥオーゾやツィガーヌも低い。ヴィルトゥオーソは低張力ながらも大きい音を実現したとメーカーが言っている弦ですね。ピラストロで言うならVIOLINO(ヴィオリーノ)が張力低いですね。
ドミナントはテンションが高めと言われることもありますが、この表によるとそれほどでもないみたいです。現在幅広く使われている弦で言えばEVAH PIRAZZI(エヴァ ピラッツィ)のほうがだいぶテンションが高いようです。

弦の押さえやすさという点で言うと弦の材質も関係してくるので、テンションで一概に判断することはできません。しなやかさがあれば張力が少しあっても押さえやられる、あるいは気にならないということです。

この表はとても興味深いですね。ダダリオで言うとザイエックスやヘリコアはやっぱりこれくらいのテンションがあるんだなぁとか、プレリュードは安いけどテンション高いなぁとか。

つまりテンションの差を感じたいならラーセンとエヴァ・ピラッツィを弾き比べたり、ドミナントとインフェルドレッドを弾き比べたりするのがてっとり早いです。演奏する上でテンションの大きさが気にならなければ良いのです。初心者の方には難しいかもしれませんが、弦の押さえにくさを感じるのは低ポジションよりもハイポジションだと思います。第5ポジション以上のポジションで弾いてみて、反応はどうか、演奏に差し支えない程度に押さえやすいかなどを調べてみてください。

反応の良さ、という観点で言うなら、E線の場合コーティングのことも大きく関係ありますね。
たとえばオリーブのE線金メッキです。金色の弦です。通常のスチール弦だと銀色ですね。他にも金色なのはゴールドブロカットプレミアムのブラススチールです。これらの弦のレビューについては【随時更新】有名プロバイオリニストも使用するおすすめのバイオリン弦の種類は?弦の比較の参考に。の記事の中で触れています。

一般的な話、としてよいかわかりませんが、私の印象ではコーティングされた弦(金色など)は反応が鈍くなり、裏返りやすくなります。もちろんオリーブのE線などの響きは大変豊かで素晴らしいです。最初オリーブのE線を張った時は音量、音色に感動したものです。値段分の価値がある良いE線だとは思いますが、私に金メッキは合わないのか弾いていてほんのすこしのストレス、もうちょっとレスポンスがあって欲しいと感じてしまいます。私はもっぱらE線は通常のスチールタイプを張っていることが多いです(2016年9月9日現在の私のE線はWestminster

弦の寿命、値段、コストパフォーマンス、ヴァイオリンとの相性

弦は消耗品ですから、寿命があります。ハーモニクスでうんぬんかんぬんが基準、と言う人もいますが弦の寿命の考え方は曖昧な点もあります。張ってから伸び続けているときが弦の響きとして良く、安定したら音質は下降線をたどる、なんて話もあります。弦が切れるまで使うという人は少ないかもしれませんが、無頓着な人は無頓着です。

弦楽器のイントネーションというヴァイオリン弾き、弦楽器奏者なら絶対に知っておきたいことが記されている名著があるのですが、この本に「5度を純正に合わせた弦の重要性」という項目があります。同じ弦でもよく押さえる箇所、つまり超ハイポジションよりも第1ポジションなどの低いポジションのほうがよく押さえますよね、これらの箇所は何度も押さえられて弦がわずかに変形してきて、あまり使われていない弦の部分に比べて速く振動するとあります。弦楽器は当然弦が振動することで奏でられていますが、1本の弦の消耗も部分によって変わるとムラが生まれやすくなるということです。たくさん押さえられて少しやわらかい部分と、それほど押さえられてなくてやわらかくなってない場所が生まれると、やわらかい部分はより速く振動するようになり、やわらかくない場所はそれに釣られて速く振動するようになるわけではないので、高いポジションで使われる頻度が少ない部分ほどより低く響くようになるそうです。だからこの項目では、練習では安い弦を頻繁に変えるほうが良いと言っています。「練習では」とあえて言っている点は興味深いですね、本番では本当に気に入った弦を使えばいいだろうけど、という意味だと思います。楽器に弦がなじむかなじまないかなどの考え方の議論は置いておきましょう。純正5度とオクターブが欠陥のある弦を探すのに効果的、とありますが、これは正直難しいですね、だれでもパッとわかるものではないです。

弦の寿命についてここで言いたいことは、弦の寿命を探すところまで弦を酷使しすぎないということです。1万円の弦を4ヶ月使うのと、5000円の弦を2ヶ月使うのと、コストパフォーマンスは一緒じゃないかと思うかもしれませんが、4ヶ月使った弦のほうが消耗は大きいでしょう。弦の材質作り方品質などで消耗しにくさに差はあると思いますが、どちらにしてもたくさんヴァイオリンを弾いて練習したいと思う人は後者のパターンを選ぶべきではないでしょうか。1日の弾く時間などによるかもしれませんが、毎日何時間も弾く人は1ヶ月以内くらいで替えれば良いと思いますし、週末2日間に数時間ずつという人なら2ヶ月や3ヶ月使っていても問題ないでしょう。

練習と本番で弦を変えても良いと思います。その場合本番の弦にはすでに慣れているという前提ですが。練習では頻繁に新しい弦にして、ヴァイオリンの純正感覚をなるべく保ちながらゴリゴリ弾く、本番ではもう少しいい弦に変える。
たとえば練習ではこのトマスティークの激安コストパフォーマンス最強弦を使って、本番はDominant(ドミナント)に変えるのもありです。いつもドミナントを弾き倒して替えて行く予算がある人はもちろんそのまま本番前にまた新品のドミナントにする、という感じが良いでしょう。安い弦はあくまで練習用と割り切り、練習ですら使っていて気持ちが悪いと感じるなら別の弦にするしかありません。人によってヴァイオリン弦に使える予算が違いますからなんとも言えません、しかし弦は頻繁に替えるに越したことはなく、一生懸命練習している人ならなおさらのことです。継続的な関係を築いていける弦にあなたが出会えることを祈っております。こちらも参考にしてみてください→【随時更新】有名プロバイオリニストも使用するおすすめのバイオリン弦の種類は?弦の比較の参考に。


少し焦点が変わりますが、弦による楽器の響き方にはヴァイオリンの魂柱の位置も関係してきます。これは非常に微妙な問題で言えることは少ないのですが、魂柱のほんの少しの位置関係で変わってくるということはもし知らなかった人がいるなら頭の片隅にとどめておいてください。ヴァイオリンをもし調整に出すなら、自分が最も使いたい弦を張った上で調整に出すと良いでしょう。


以上、長々と書き連ねました。
あなたが良い弦に出会いより豊かな音楽生活を送れることを心より願っております。

こちらでも弦について触れてます。もしよろしければご覧ください。
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